sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


「あー、ゴメン。千那、ちょっと待てって」


少し焦っているような綾辻さんの声が背中に掛けられるけど、私はそれを無視して施設内をずんずん進む。

ちょっと先にエスカレーターが見えて、上の階にはお土産のショップやレストランがあると表示されている。

別に特別見たいわけじゃないけど、気分転換に行ってみようかな。

そう決めて、エスカレーターに一歩踏み出した時。


「あ、あのっ。綾辻弁護士さんですよね!」


興奮したような若い女性の声がして、パッと後ろを振り向く。

そこでは私を追いかけていたはずの綾辻さんが、四人くらいの女性に囲まれていて。


「一緒に写真撮ってください!」

「私は握手!」

「今日はおひとりですか? よかったら私たちと一緒に――」


エスカレーターで徐々に上昇していた私は、綾辻さんが彼女たちにどう答えるかまでは見えなかった。

でも女性扱いの上手いあの人のことだ。彼女たちを喜ばせるような言動をしているに違いない。


「今は私とデートしてるはずなのにな」


彼を無視して勝手な行動をしているのは自分の方なのに、おもしろくない。

写真も握手もいやだけど、それよりも「一人です」と嘘をつかれていたらショックだな……。まあ彼は有名人だから、嘘でもその対応で正しいんだろうけど。

胸の内で不満をくすぶらせながら歩いていると、目につくほかのカップルが妙に幸せそうに見える。あーあ。親密そうに恋人つなぎなんかしちゃってさ。

……って、やばい。なんかすごく心が荒んできてる。


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