sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
2.愛は一日にして成らず
私の勤める会社は、千葉県の幕張新都心にある。
その玄関口となる駅の周りに巨大高層ビルが立ち並ぶ中、ひと際高い三十階建てのビルが、勤務先の“才門(さいもん)ホテルグループ本社”である。
国内外にホテル・ゴルフ場・レストラン等の施設を展開する大企業で、社員数はグループ全体で一万人を超える。
私はその本社経理部に所属して一年強。まだまだ未熟な部分も多いけれど、通常の仕事ならば人並みにこなせるようになったところ。
祥平さんとお別れした翌日も、私はいつも通り書類と電卓を前に数字と格闘していた。
そして仕事がひと区切りついた昼休憩の少し前に、別室にいる祥平さんに呼び出された。
そこは一般社員とガラス張りの壁で仕切られた部長専用の小部屋。
私はわざわざそんな場所に呼び出す理由を察して、緊張しながら祥平さんの言葉を待った。
「日曜日……っていうか明後日か。さっそく綾辻弁護士とアポが取れたらしい」
「はや。っていうか、どういう名目でアポとったんですか」
祥平さんは上司だけど、あんな関係だったせいか未だに口調がくだけてしまう。
それにしても明後日って。本職のほかにテレビにも出ている有名人のくせに案外ヒマなんだな。
「副社長は“接待”って言葉を使ったらしいよ」
「わー……いかにもイカガワシイ響きですね。顧問弁護士を接待するって意味わからないけど」
「まあそれは向こうもわかってて承諾したわけだから、あとは千那ちゃ……藤咲さんの腕の見せどころじゃないかな」
気まずそうに呼び方を変えた祥平さんの姿に、昨日感じた申し訳なさが再びこみ上げてくる。
彼の期待にこたえるために、なんとかして、綾辻弁護士をその気にさせないと。でも、私にそんな演技力あるのかな……。