sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
石油王と遭遇
「わー、小ぢんまりしてるかと思いきや、意外にいろいろいますね」
「うん。俺、割と好きなんだよねココ。あんまり混まないし」
彼の言葉通り、水族館はタワーの入り口周辺やさっきいた二階のフロアに比べると、人がまばらで静かだ。
薄暗いなかで水槽だけが明るくて、その中を優雅に泳ぐ魚の姿が幻想的な雰囲気を醸し出している。
「前にも来たことあるんですか?」
「あるよ。家で飼ってるほど魚が好きだから、首都圏の水族館はだいたい制覇してる」
「へえ……」
綾辻さんは魚好きか。確かに似合うかも。
お洒落なマンションに住んでて、広い部屋の真ん中に大きな水槽を置いて。色鮮やかな熱帯魚を見ながらウィスキーでも飲んでるイメージ。
「千那は来たことある?」
「いえ、たぶんなかったような……あれ? でも」
何かを思い出しかけた私は、ひとつの水槽に近づいていく。
小さめで可愛らしい観賞魚の展示が多い中、異様に派手で大きな体をもち、恐ろしく不気味な顔をした魚……ウツボの水槽だ。
『こわい、こわいよ~!』
『大丈夫だよ千那。水槽の中からは出てこないから』
一瞬、不鮮明な映像がフラッシュバックして、私の足がぴたりと止まる。
ウツボの水槽を前に泣き叫ぶのは、小さなころの私。そして私を泣き止ませようと抱き上げたのは父で、すぐそばに母の姿もあって……。
『ほら、泣かないの千那。鯉に餌あげに行こうか』
『……うん』