sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
キスで、教えて
私たちが展望台に上った時間帯は、ちょうど日の入のタイミングと重なっていた。
午前中雨が降っていたのが嘘みたいに遠くまで景色が見え、ビル群の向こうに広がる山並みに、太陽が身を隠そうとしているところだ。
夜景と呼ぶにはまだ早いけれど、だんだんと東京の夜が始まっていく、その変化を眺めるのも悪くなかった。
「あの、空の境目がすごく綺麗だと思いません? オレンジと青のグラデーション」
「うん。ホント、綺麗だな……」
言葉少なにそう語った綾辻さんが、ふと私の隣から背後に移動する。
そして私を閉じ込めるような体勢で前の手すりに両手をつくものだから、急に縮んだ距離に心臓がどっくんと跳ねた。
「あ、綾辻さん? 普通に、景色見ませんか?」
「……あれ? 夜になったら口説いていいんじゃなかったっけ?」
耳元に触れた唇が、淫靡な声でささやく。
途端に背筋がぞくっとしてして甘い気分になりかけるけど、こんなたくさん人がいる場所でイチャイチャするカップルって痛いでしょ、と思い直す。
「誰も“いい”なんて言ってません。あなたが勝手に『夜になったら口説くの解禁な』って決めつけただけで……! そもそもまだ夜というほどの時間でもないし、とにかく恥ずかしいので離れてください!」
強めの口調で言い放つと、さすがの綾辻さんもどうやら諦めてくれたらしく、私の背中からいったん離れてまた隣に移動した。
そうして手すりに頬杖をつき、ぼんやりと景色を眺める横顔はため息が出そうなほど絵になっていて、目を奪われる。