sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
頑張ろうという意思はあるものの、胸の中は不安だらけ。
弱気な心が見え隠れして浮かない顔をする私に、祥平さんが厳しい声で釘を刺す。
「うまくいってもいかなくても、副社長が関係していることだけは社長にばれないように気を付けるんだよ」
「……わかりました」
コクンと頷いて、私は扉を出た。
課せられた任務の重さに自然とため息をこぼしていると、オフィスに内線の音が鳴り響く。
音の出どころは、私の席。まだ新人に毛が生えたような社員である私の番号に電話してくる相手と言えば、この会社ではただ一人である。
「はい、経理部藤咲で――」
『おお千那か。今日の昼はちょっと時間に余裕があるんだ。一緒に寿司でもどうだ』
「……社長」
『おじいちゃんでいいっていつも言ってるだろう』
電話の向こうの彼こそが、才門ホテルグループの取締役社長であり、私を溺愛する祖父、才門勝美(さいもんかつみ)。
会社をここまで大きくしたのは彼のずば抜けた経営力によるところが大きいらしいけど、私の前では本当にただのおじいちゃんだ。
「そうでした、おじいちゃん。お寿司だけど、またでいい?」
『なんだ、忙しいのか』
「ううん、先約があるの。来週ならいいよ」
『そうか……それなら仕方がないな』
残念そうな祖父の声を聞くと、先約なんて嘘をついたことに罪悪感を覚えてしまう。
だけど今は一緒に食事をする気分にはなれない。
例の計画について口を滑らせるつもりはないけれど、祖父を前にしたら決心が揺らいでしまいそうだもの。
“ゴメンね”と心の中で謝りつつ、今度は必ず行くと約束して、電話を切った。