sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
廊下の途中にある【副社長室】のプレートが掲げられた重厚な扉。
そこを遠慮がちにノックをすると、すぐに「どうぞ」と返事があった。
「失礼します……」
緊張しながら扉を開くと、むわっとした強烈な甘い香りが鼻をついて、私は思わずむせてしまう。
な、なにこれ……。部屋中変なにおいがするんですけど。
顔をしかめながら足を踏み入れた副社長室で、まず綺麗に片付いた大きなデスクが目に入った。異様な香りの出どころも、どうやらデスクの上にある小さな香炉みたい。
副社長の趣味かな? それにしてもきつい香りだな……。
私を呼びつけた当の副社長本人、瀬川晴馬(せがわはるま)は高級感のある応接セットのソファに腰掛けていた。
彼は重役にしては若く、年齢は確か綾辻さんと同じくらいだ。
身長は百七十前後で細身の体。中性的で綺麗な顔立ちをしているけれど、瞳がどこか冷たくて――。
「お忙しいところ、お呼び立てしてすみません」
にっこり微笑まれるけれど、それが逆に怖くて、ぎこちなく頭を下げた私。
勧められるままに彼の向かい側のソファに座り、姿勢を正して彼を見つめる。
「それで、お話というのは……」
「ええ。ではさっそく単刀直入に聞きますけど、綾辻弁護士のもとへあなたを派遣したあの夜、あなたの誘惑は本当に失敗したんですか?」
「え……?」
どくん、と心臓がいやな音を立てる。まさか、祥平さんの報告が嘘であったことに、この人は気づいているのだろうか。
だけど、それを認めちゃったら詠吾さんに迷惑が……。