sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


廊下の途中にある【副社長室】のプレートが掲げられた重厚な扉。

そこを遠慮がちにノックをすると、すぐに「どうぞ」と返事があった。


「失礼します……」


緊張しながら扉を開くと、むわっとした強烈な甘い香りが鼻をついて、私は思わずむせてしまう。

な、なにこれ……。部屋中変なにおいがするんですけど。

顔をしかめながら足を踏み入れた副社長室で、まず綺麗に片付いた大きなデスクが目に入った。異様な香りの出どころも、どうやらデスクの上にある小さな香炉みたい。

副社長の趣味かな? それにしてもきつい香りだな……。

私を呼びつけた当の副社長本人、瀬川晴馬(せがわはるま)は高級感のある応接セットのソファに腰掛けていた。

彼は重役にしては若く、年齢は確か綾辻さんと同じくらいだ。

身長は百七十前後で細身の体。中性的で綺麗な顔立ちをしているけれど、瞳がどこか冷たくて――。


「お忙しいところ、お呼び立てしてすみません」


にっこり微笑まれるけれど、それが逆に怖くて、ぎこちなく頭を下げた私。

勧められるままに彼の向かい側のソファに座り、姿勢を正して彼を見つめる。


「それで、お話というのは……」

「ええ。ではさっそく単刀直入に聞きますけど、綾辻弁護士のもとへあなたを派遣したあの夜、あなたの誘惑は本当に失敗したんですか?」

「え……?」


どくん、と心臓がいやな音を立てる。まさか、祥平さんの報告が嘘であったことに、この人は気づいているのだろうか。

だけど、それを認めちゃったら詠吾さんに迷惑が……。


< 87 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop