sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「お香? ……さっきから部屋中に漂ってる、この匂い……ですか?」
「ええ。これは私自身がプロデュースした商品なんですよ? 女性をロマンティックな気分にさせる香りにしたつもりです」
ロマンティック? うそでしょ。だって私むしろ具合悪くなってるよ。
全然いい匂いだとも思えないし、こんな商品何に使うつもりなんだろうか。とにかく、一刻も早くこの部屋から出たい……。
「すいません、めまいがするのでちょっと……」
そう告げて席を立とうとしたのに、副社長が私の肩を掴んで私をソファに押し戻す。
「それはめまいではありません。……お香の効果で、隣にいる男性に身を委ねたくなっているのです」
は、はぁ……? 全くなっていませんけど!
ちょっと正気を取り戻した私は、肩に置かれた副社長の手をつかんで抵抗を試みる。
でも、やっぱり男性の力には勝てない。
「……綾辻を出し抜くには、もうこれしかないんです」
ボソッと意味不明な発言をしたかと思うと、副社長が私の顎を掴んで無理やり上を向かせる。
も、もしかしてキスするつもり――!?
「やめて――っ」
叫ぶように大声を出したその時、副社長の動きがぴたりと止まった。彼のデスクの上で、電話が鳴りだしたからだ。
忌々しそうに舌打ちをした副社長は私から離れ、デスクの方に向かう。
い、今が逃げるチャンス……!
私は怠さの残る身体をなんとか動かして、副社長室を飛び出した。