sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
エレベーターという閉鎖された密室空間から出ると、急にとてつもない気恥ずかしさが襲ってきた。
誰も見ていないとはいえ、会社であんなに濃厚なキスしちゃうなんて……。明日からエレベーターに乗るたび思い出しちゃいそうなんだけど、どうしよう。
私は少し先を歩く詠吾さんの後ろで、おそらく真っ赤に染まっているであろう顔を俯かせる。
すると人気のないロビーを横切ってビルの出入り口に向かう途中、詠吾さんが足を止め、私を振り返った。
「なあ、千那」
その瞳はさっきキスをしていたときとまったく変わらない、熱に浮かされたような色をしていて。
「千那のこと、うちまで持って帰っていい?」
恋愛経験の乏しい私にでもその意味は簡単に理解できて、もともと火照っていた顔が沸騰しそうになった。
でも……私も、もっと詠吾さんと一緒にいたい。
それに、今なら確かな輪郭を持ちはじめてきた自分の気持ちも、伝えられるかもしれない。
「……はい」
勇気を振り絞って大きく頷き、私は彼に駆け寄り自らその手を取った。
詠吾さんはちょっと驚いて、でもそれ以上に嬉しそうで、私の手をしっかりと握り返してくれた。