ぼくのセカイ征服
「名前…ですか?知っていて当然でしょう。兄から、噂は嫌になるほど…いえ、かねがね聞いておりますので。しかし、噂通り、本当に普通なお方ですね。がっか…いえ、安心しました。」
「がっか!?何だそれは!がっかりの略かっ!?」

ついに、思わずツッコんでしまった。何回も言い直している所が、妙に同情されている様で腹立たしい。いや、それを通り越して虚しささえ感じる。同情の念を掛けてくれる心遣いはありがたいのだが、一度露骨に言いかけたのを言い直されても心苦しいだけだ。扱いにくいところまでそっくりだな、この兄妹は。
…しかし、本当によく似ている。外見だけで言えば、まさしく瓜二つ。瓜生だけに。
ぱっちりとした目や、さほど長くはないが短くもない黒髪、そして、双子であっても差が出やすい背丈ですら、ほぼ同じだ。ついでに言えば、声さえもよく似ている。
まぁ、この妹は兄と違い、人と接するのが極端に苦手なわけではなさそうだ。言葉遣いなどを含め、総合的に見れば、本当によくできた妹だな。

…男装している事を除いて。

プライベートで会った事はないので、私服までシュンが女装(シュンの妹は男装)しているのかはわからないが、もし、街でばったり出会ったりしたら、どうやって判別すればいいのだろう?というほど見分けがつかない。

「ふふ…予想通りのツッコミです。」
「…………」

一瞬、本当にイラっときたが、まぁ、いいだろう。今日の僕は寛大だから…というか、いつも僕は寛大だから、許してやるとしよう。いちいち気にしていては、胃が痛くなりそうだし。
…そんな事よりも。
今、僕にはやらねばならない事がある。それは…

「ええと…シュンの妹さん、一つ聞きたい事が…」
「時任先輩が『その辞書みたいなの見せてよ〜♪ぐへへ!』と言う可能性、大。予測値は98%…」
「そんなヘンな風には頼まないからなっ!」

でも、言おうとした事柄は的確に当てられている。やはりエスパーなのだろうか?
エスパーを相手にしての会話は、分が悪い。なんせ、言おうとした事を言う前に言われてしまうのだから。それでは、ツッコミが成り立たない。
しかし、だからといって怯んではいけないな。

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