ぼくのセカイ征服
異常な程落ち着いたその男の手元を、一連の騒動の原因を作った『会計』の男は覗き込むと、何か思う所があったのか、もごもごと口を動かした。

『会長』は、それを少し気にしながら、ごく自然な流れで質問を続けた。

「…それで、具体的な部活名は?」
「ガンサバイバル部に、ゲーム研究部。それと……」
「チャリ部、ですねぇ。」
「チャリ部…?サイクリング部が既にあるはずだが?」

もごもごを止めた『会計』が、何故か全く無関係なところで会話に入って来たが、『会長』は気にも留めず、誰にでもなく更に質問をした。

「チャリ部…正式にはぁ、『チャリティー部』…とありますねぇ。」
「そうか…。フン、チャリティーといっても、所詮は偽善に塗れたエゴイストの集団なのだろう。まともな活動は期待できないな。念のため聞いておくが、部長の名は?」
「…『時任 亨』、だ。」
『書記』の男は本来の仕事を『会計』の男から取り返し、ぼそりと呟く。

「時任、亨…だと?それは本当なのか!?」

時任亨という名前が出た瞬間、急に、アヤナという女が声を荒げて聞き返した。

「どうした、アヤナ?何か思い当たる事でもあるのか?」
「…い、いや……何でもない、続けてくれ。」

が、女はすぐに冷静さを取り戻すと、申し訳なさそうな表情で軽く首を横に振って、話を続けるよう促した。

「…?おかしな奴だな。アミ、『時任 亨』のパーソナルデータを。」
「ええ、少し待って………これね。」

『会長』の指示で『会計』の女は立ち上がり、部屋にある棚を一通り調べると、一冊の本をそこから取り出し、真ん中辺りのページを広げた。

「…ほう、学力や運動能力等の成績は全てが所謂『並』だな。一見して、脅威となる可能性は皆無…」
「そうね…脅威どころか、全くの人畜無害な人物に感じるわ。」
「…しかし、気になる点が一つある。経歴だ。」
「――なるほど…これは、酷いわね。」

『経歴』の欄には余程の事が書いてあるのか、データを凝視していた『会計』の女は顔をしかめ、どこか物悲しげ呟いた。

「中学校3年生の妹がいるのか…名前は、帳?『時任 帳』…どこかで聞いた事がある様な…」
「なるほどぉ、これで合点がいきましたよォ。」
「…『なるほど』?ライ、何について合点がいったんだ?」
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