ぼくのセカイ征服
「そう…それならいいのだけれど。でも、もし悩みがあるのなら、塞ぎ込んではダメよ?」
「…わかった。もしも『その時』が来たら、力になってくれ。」
「ええ、もちろんよ。遠慮はいらないわ。私達、友達だもの。ね?」
アミという女は、どこまでも優しい声と共に、思い悩む(本人はそう言ってはいないが)目の前の『友達』に微笑み掛けた。
「ふふ…そうだな。よし、帰ろう!戸締まりは私が引き受ける。鍵を職員室に持っていくのも、だ。だから、しばらくの間、お前は校門の辺りで待っていてはくれないか?」
「え…?別に、戸締まりなら一緒に……」
「すまない…私は、」
「…!わかったわ。別に、謝る事はないのよ。少し、一人になりたいのよね?それならそれで、全然構わないわ。私は、大人しく待っているから。」
言葉を途中で遮られたアミという女は、その時点でアヤナという女の真意に思い至り、そっと部屋を立ち去ろうとした。やはり、限りなく優しい声と、立ち振る舞いと共に。
「…アミ。」
『会計』の女の足音が響き始めた時、アヤナという女は、振り向かずに、遠ざかる背中に声を掛けた。
「…?なぁに?」
対して、アミという女も何かを悟っているのか、背中越しに答えた。
「――ありがとう。」
「な、何を急に改まって…いいのよ、そんな事くらい。私は、貴女の友人として当然の事をするまでよ。」
「では、先に行っていてくれ。すぐに追い付くから、心配はするな。…そうだ!そういえば、帰り道に新しい料理店が出来たんだ。今日はそこへ立ち寄らないか?」
「ええ。断る理由は微塵もないわ。それじゃあ、先に行っているわね。」
この瞬間にも、世界のどこかで同じように交わされているであろう、ありふれたやり取り。
お互いに背を向けて、という特殊な状況はおそらく彼女達だけだが、やはり、やり取り事態が平凡そのものだという事に疑う余地は無い。そう、二人の行為は、紛れも無い『日常』だった。