不埒なドクターの誘惑カルテ
第二章 意外な一面
第二章
職場巡回のあった週の金曜日のこと。
二十一時半。人が少なくなり、灯りがついているのは私のいる場所だけだ。
来週支払われる予定の給与の計算を、私は必死になってやっていた。
自分の担当の箇所はすでに終わっていた。今やっているのは、本来ならば山辺さんのやるはずだった仕事だ。しかしご家族の体調がすぐれないということで、私が代わりにやっていた。
勤怠データを確認し、手当や、報奨金、有給の管理もしなくてはならない。私は集中力が切れそうになるのをなんとかつなぎとめて、必死でパソコンに向かっていた。
そして切りのいいところまでやりとげ、大きく背伸びをする。
「ふー。ここまでやっておけば、大丈夫かな」
「だったら、早くパソコンの電源切って」
「ひっ」
誰もいないと思っていたのに、いきなり声が聞こえて驚いて振り向く。そこには束崎先生が立っていた。
「もうっ! 脅かさないでくださいよ」
「あはは。しかしすごい驚きようだったな。お化けでも出たと思った? かわいいなぁ茉優は」
また軽々しく、かわいいだなんて口にする。そういう態度だから、信用できないのだ。
私は気を取り直して先生に話しかけた。
「束崎先生こそ、どうしたんですか? こんな時間に」
「どうしたって、これ。遅くなって悪かったな」