不埒なドクターの誘惑カルテ
「あぁ、あれね。いや〜感心したよ。まさか数ヶ月でここまで成果が出るなんてなぁ」

「ありがとうございます」

 束崎先生は部長の言葉に、はにかんだ笑顔を見せた。

「しかも、ここに三ヶ月は目に見えてよくなっているな」

「それは、坂下さんのおかげですよ」

「えっ? 私?」

 まさか、ここで名前が出るとは思っておらずに、驚いた。

「そうか。そうか。坂下くんも頑張ってくてれいるもんな」

 部長も笑顔でうなずいていた。

「あの、私はなにも——」

「いえ、彼女は私が契約している他の会社の社員と比べても、本当によくやってくれています」

 ストレートに褒められて、恥ずかしくなり思わず緩みそうになった口元を隠した。「そうかそうか、確かに坂下くんはよくやってくれているよ。異動して数ヶ月だけど、うちの部署になくてはならない存在になってくれて、本当に感謝しているよ」

「部長……」 

 異動初日、右も左もわからずに途方にくれたことを思い出した。そこからここまで、こんな短時間で評価されるようになるとは思わなかった。

「私は、ただ一生懸命やってきただけですから。でもありがとうございます」

 隣を見ると、束崎先生も優しい笑顔でこちらを見ていた。気恥ずかしくなった私は、手元の資料に視線を戻す。

 それを合図にしたかのように、先生が今後の取り組みの方針の話を始めた。

 数分間打ち合わせをして、来月の予定を伝えて報告が終わる。

 私は束崎先生をエレベーターホールまで、お送りする。

「よかったな。成果、褒められて」

「はい。でも、これは全部束崎先生のおかげですよ。正直、異動当初は、労務の仕事がどんなものか全然わかっていなかったと思います」

 歩きながら、これまでのことを振り返る。

「マニュアル通りにやっていれば、それでいいと思っていたんです。でも先生が真摯に取り組む姿を見て、私の考えも変わりました」

「そっか……優等生だな、茉優は」

 私の頭に手を載せて、ポンポンとたたいた。まるで子供を褒めるような仕草なのに、なぜだかドキンと胸が音を立てる。

 エレベーターのボタンを押すと、すぐに動き出した。まもなくここ十九階に到着するだろう。

「あ、そうだ。せっかく今日褒められたんだから、お祝いしようか? 食事に行こう。何が食べたい?」

「えっ?」
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