不埒なドクターの誘惑カルテ
しかし「少しでも先生の役に立ちたかった」とでも言おうものなら、また重い女だと思われてしまう。
完全に拒絶されたのにもかかわらず、余計なことをする、あきらめの悪い女だ。でも、先生にはそう思われたくなった私は、口をつぐんで俯いてしまった。
そんな私を見て、先生はため息をついた。あきれられても仕方ない。
「聞き方が悪かったな、すまない」
先生が私の手を両手で包んだ。思わぬ出来事に、私は顔をあげて至近距離にある先生の顔をみつめた。先生も私を見つめていたが、一度ぎゅっと目を閉じてそして意を決したように話し始めた。
「茉優、総務部長から電話で事故の話を聞いたとき、俺がどんな気持ちだったか、わかるか?」
心配してくれたのはわかる。けれど先生はそれ以上の話をいっているのだろう。
「俺はお前に、何かあったらきっと自分を許せなかったと思う」
そうだ……先生は及川さんの妹のことをまだ引きずっている。それほど、自分の周りで起こったことに責任を感じる人だ。
でも私はそんなこと、これっぽっちも期待していない。
「どうして先生が責任を感じる必要があるんですか? 産業医だからってそこまで気をつかっていただかなくても大丈夫ですから」
私の言葉に先生は首を振った。
「そんな理由じゃない。産業医だからって、誰でもかれでもこんなに心配してたら、俺の身がもたないだろ。茉優だから、こんなにあせって、心配して、なりふりかまわずにここまで連れて来たんだ。わからないのか?」
「私だから? ……それって」
私の手を包んでいた先生の手に、力がこもる。
「茉優、お前のことが好きだ」
まっすぐな彼の視線、真摯な思いが私の胸を貫いた。まっすぐに届いたその思いが、私の胸を苦しいほど、締めつけた。
「本当に?」
夢ではないだろうか?
彼に尋ねずには、いられない。
一度は拒否されたと思って、あきらめた恋。それが今、私の手の中にある。
「でも、いいんですか? 先生は……」
「及川から聞いた話だろ? まぁ、確かにあのときのことが俺の胸の中にあるのは間違いない。それは産業医として、あんなふうに心の病になる人間を救いたいという思いだ。だから彼女に未練があるわけじゃない」
しかしあの時、確かに先生は私を拒絶した。
完全に拒絶されたのにもかかわらず、余計なことをする、あきらめの悪い女だ。でも、先生にはそう思われたくなった私は、口をつぐんで俯いてしまった。
そんな私を見て、先生はため息をついた。あきれられても仕方ない。
「聞き方が悪かったな、すまない」
先生が私の手を両手で包んだ。思わぬ出来事に、私は顔をあげて至近距離にある先生の顔をみつめた。先生も私を見つめていたが、一度ぎゅっと目を閉じてそして意を決したように話し始めた。
「茉優、総務部長から電話で事故の話を聞いたとき、俺がどんな気持ちだったか、わかるか?」
心配してくれたのはわかる。けれど先生はそれ以上の話をいっているのだろう。
「俺はお前に、何かあったらきっと自分を許せなかったと思う」
そうだ……先生は及川さんの妹のことをまだ引きずっている。それほど、自分の周りで起こったことに責任を感じる人だ。
でも私はそんなこと、これっぽっちも期待していない。
「どうして先生が責任を感じる必要があるんですか? 産業医だからってそこまで気をつかっていただかなくても大丈夫ですから」
私の言葉に先生は首を振った。
「そんな理由じゃない。産業医だからって、誰でもかれでもこんなに心配してたら、俺の身がもたないだろ。茉優だから、こんなにあせって、心配して、なりふりかまわずにここまで連れて来たんだ。わからないのか?」
「私だから? ……それって」
私の手を包んでいた先生の手に、力がこもる。
「茉優、お前のことが好きだ」
まっすぐな彼の視線、真摯な思いが私の胸を貫いた。まっすぐに届いたその思いが、私の胸を苦しいほど、締めつけた。
「本当に?」
夢ではないだろうか?
彼に尋ねずには、いられない。
一度は拒否されたと思って、あきらめた恋。それが今、私の手の中にある。
「でも、いいんですか? 先生は……」
「及川から聞いた話だろ? まぁ、確かにあのときのことが俺の胸の中にあるのは間違いない。それは産業医として、あんなふうに心の病になる人間を救いたいという思いだ。だから彼女に未練があるわけじゃない」
しかしあの時、確かに先生は私を拒絶した。