夏が崩れる音がした
きっと将来、今こうやって頑張っていることを後悔したりしない。

目指す進路のための勉強だ、テストも模試も、意味のないことじゃない。


それは分かっているのに、どうしても思ってしまう。


真剣に部活に打ち込んでみたかった。

何か自分の好きなことを一つでも見つけてみたかった。

一生に一度の恋もしてみたかった。

放課後にカラオケだとか友達とたくさん遊びたかった。

バイトだってしてみたかった。

なんなら違う高校に通ってみたかった。


高校生という身分を存分に満喫してみたかった。


願望なんていくらでも出てくる。

それなのに、俺達はそれらの全てを叶えることはできない。


ただひとつしか選べない。


もし他の選択肢を選べたら、どうなっていただろう。


俺は菜子に好きだと言えたのかもしれない。

そうしたら俺は菜子のもっと近いところにいることができたかもしれない。


春は桜を一緒に見上げて、夏は花火大会で浴衣姿を。

秋は美味しいもの食べながら一緒に帰って、冬はマフラーに埋もれる赤い頬を。

俺は隣で見られたかもしれない。


そんな妄想をして、首を横に振る。


今さらこんなことを思うなんて、遅い。遅すぎる。


高校生活は3年もあったのに、その間菜子のそばにいたのに、それでも言えなかったのは勉強に追われていたからではなくて。


全部、俺の弱さだ。


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