夏が崩れる音がした
言えなかった、ずっと。

いや、言わなかったんだ。

心地よいこの関係が壊れてしまうのが怖くて。


壊れたら、それは幼馴染みでいられなくなるだけじゃない。他人よりもっと遠い関係になってしまう。

それがなにより怖かった。

自分でも臆病だと思う。

全部勉強が忙しいせいにして、言わないことを選択して逃げようとしているんだから、本当に卑怯だと思う。


そうやって自己嫌悪する俺のことなんて全く気づかない菜子は「ごめん、変なこと言った」と作った笑顔を見せた。


「勉強、しなきゃだよね」


なんて言いながら焦ったように笑顔を引きつらせて参考書のページをめくってシャーペンを手に取る。


それを見て、ああ、菜子は気にしたんだなと思った。

菜子の言葉に俺が黙ってしまったことを、誤解したようだ。

なんて変なことを考えているんだと俺は思ったんだろうと、そう受け取ったらしい。

突飛な考えが菜子らしいというか。


そこまで考えて、いや、違うと気付いた。


菜子の頬が僅かに色づいている。


俺は唾を飲み込んだ。


菜子が悔やんだ高校生活は、本当に過ごしたかった高校生活は。

もしかして、俺と同じ…。


そう思い至って、けれど自惚れるな、思い上がるなと自分に言い聞かせる。


そう言い聞かせているのに、


そうであるなら嬉しい、とも思ってしまう。


青い高校生の感情は、青い空に浮かぶ入道雲のようにもくもくと膨れていく。


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