呪われ姫と強運の髭騎士
「あの……」
 
 クリスの自分を呼ぶ名前にふと疑問を持ち、彼に尋ねてみた。

「クリス様は、どうして私のことを『姫君』とお呼びになるの?」

「えっ? しかし、ソニア様は騎士の私にとっては『姫』でして――」
「でも、私を馬車から助け出して下さった時には『ソニア』と呼んでくださいましたよね?」
 
 瞬く間に全身を真っ赤にさせたクリスを見たソニアは驚いて、瞳を瞬かせた。

「――いや! これは……! 大変失礼なことを! あの時は私も無我夢中でして……!」
「いずれ、夫婦になるのですから、名前でお呼びしても構いませんのに……」
「いや! しかし、まだ私達は式もあげていませんし……! 全てが済むまで『姫』と呼ばせてください」
 
 今一、納得できないソニアは疑心を籠めた眼差しでクリスを見据える。
 
 そりゃあ、彼にとっては自分はまだまだお子様に見えるだろう。
 
 それに長く修道院で過ごしていたせいか、世間知らずな所があると分かっている。
 
 王宮に行くために礼儀作法やダンスのおさらいをしなくては不安だったし、今時の流行のドレスや話も分からず、クリスに尋ねては情報収集に勤しんでいた。

(だからって結婚適齢期よ、私。適齢期って言うのは心身共に大人ですよって言うことじゃなくて?)

 ――でも三十路を過ぎた彼には、まだまだはな垂れ小僧なのかしら?

(まさか………)
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