呪われ姫と強運の髭騎士
 それだけ強いショックを受けて、強い感情が湧き上がる。

「両親が事故で亡くなって私はこの修道院に入ることになって……。城に残った兄達も次々に病気や事故で……! おかしいと、何かがあるって、実家のことを考えるといつもそう思っていました!……でも、どうしてそう不幸が続くのか、自分なりに考えても分からなくて!」

「ソニア……」
 
 シスターの自分の名を呼ぶ声が痛い。
 
 つい漏らしてしまった後悔と、憐憫の混じった切なさ。

「知っているなら教えてください! 私に! クレア家に何が起きているのか!」
 
 ソニアの手は、逃がすまいとシスターの袖をしっかりと握り、彼女に問い詰める。

「……ごめんなさい、私の口からは言えないの……」
「シスター!」
 
 お願いします! 訴える眼差しに怯むことなくソニアを見つめるシスターの表情は、憂いに満ちたままだ。
 
 それでも、ソニアが落ち着くようにと、しきりに髪や頬を撫でる。
 
 その慈しみは、いつもとても心地好いものなのに今は、誤魔化す為の所為としか思えずにいた。

「どうして? どうして教えてくれないのです?」
「……パトリス王に、固く口止めをされているのです」
「パトリス王が?」
 
 シスターは浅く頷いた。

「ソニアの実家――クレア家は、昔から王家と深く関わってきた家系です。それは私達が考えているよりずっと密接に。過去に政権がひっくり返るかもしれない事変が起きたほど」
「それはもう遠い過去の話です。今は臣下の一人にしかすぎません」
「それでも、未だクレア家は王家より上回る財力を持っています――『王家と密接な家系』『一時期、王の座を狙っていた一族』――これだけでも周囲から妬みや嫉妬、恨み等不の思念を呼び寄せてしまうのですよ」
「……」

「ソニア、まだ王の口から事の始まりを語っていないなら、まだ貴女がそれを受け止める状態ではないと判断したからかもしれません。又は今度の生誕祭で、お話をしようとしているのかもしれません――とにかく、私の口からは言えないのです」
 
 ごめんなさい――抱き締められて、シスターの掠れた謝罪を耳元で聞いた。
 
 ソニアは頷くしかなかった。
< 118 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop