呪われ姫と強運の髭騎士
 今思えば、幼い頃父や母は自分にとても甘かった気がする。
 
 まだ嗜みを覚えなくてはいけない年頃ではなかったにしろ、貴族の子女として厳しく躾に関して注意されたことはなかった。

(もしかしたら、クレア家の怪奇現象はもっと以前から起きていて、いつ死ぬかどうか分からないから、私の好きに……?)
 
 ソニアは芝に広がる闇が自分に迫っている感覚に襲われ、ぎゅっと目を瞑る。
 
 一緒にドレスも強く握っていたらしい。
 
 ポン、とセヴランの手がソニアの拳を包む。
 
 ハッと、セヴランと顔を合わせると微笑まれた。
 
 薔薇の香に似た甘い微笑みに、ソニアの胸の鼓動が不規則に打つ。

「クリスと喧嘩でもしたの?」
 
 クリスの名が出て、ソニアは彼が自分に言った内容を思い出し俯く。

「……喧嘩なんてしていません。ただ……」
「ただ?」
 
 この先を聞きたそうに、こちらを覗き込んでいるセヴランの顔が近いことに気付いたソニアは、ますます俯いてしまう。
 
 顔が熱い。
 
 こんな風に男性に顔を覗き込まれることなんて、今まで経験したことがないソニアにはどうしたら良いのか考えが思い浮かばず、混乱した頭でクリスに言われたことを話した。
 
 もしかしたら順序不同の支離滅裂な内容になっていたかもしれないが、セヴランはウンウンと頷きながら話を聞いてくれて、それが徐々に彼女を落ち着かせる事となった。
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