呪われ姫と強運の髭騎士
 喧騒と音楽と熱気から少し離れた場所で、ソニアはホッと肩の力を抜く。
 
 微風でも、火照りすぎた身体の熱を冷ますのには充分だった。

「はい、飲み物」
 
 セヴランが華奢な作りのグラスに入れた飲み物を差し出す。

 ソニアはありがたくそれを受け取った。

「ありがとうございます。とても喉が渇いていたから……」

 一気にグラスの中を空にするソニアを見て、セヴランはクスクスと笑った。
 
 それから、ちょっと不機嫌な表情を見せる。

「まったく、あれだけソニアに集っておいて、飲み物一つ差し出す気遣いも出来ないのばかりだとは……」
 
 呆れた口調でぼやくセヴランの言葉にソニアは、はた、と気付く。
 
 ――そう言えば、逃げるのが困難なくらいに囲まれたというのに、誰一人ダンスに誘ってこなかったし、飲み物さえも差し入れる男性はいなかった。
 
 近付きたいが触れたくない――そんな雰囲気が滲んでいた。

(みんな『呪い』の噂を知っている……)
 
 なのに、当事者の自分が詳細を知らないから、どうしたら良いか考えつかない……。

「でもセヴラン様は気付いてくださいました。ありがとうございます。なかなか抜けれなくて困っていたものですから」

 と、悩みを振り切るように笑顔で礼を述べる。

「だって、ずっと見ていたから」
「――えっ……?」
 
 心底驚いたソニアを見てセヴランは苦笑する。そうしてゆっくりと彼女に近づくと、すぐ横に寄り添うようにバルコニーの柵に背中を預けた。

「昨夜の告白、覚えていないの? 本気だよ? 僕は」
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