呪われ姫と強運の髭騎士
「あの……コルトー様」
 
 ソニアは思い切って、自分から彼に声をかける。

「姫君、クリスで結構ですよ。昔は私のことをクリス、と呼んでいたでしょう?」
 
 覚えておいでですか? と尋ねられて、ソニアは小さな頃の思い出に頭を巡らす。
 
 王宮にある王妃が住まう後宮にある中庭。
 四季折々の花々に果実がいつもソニアを迎えてくれた。
 
 覚えているのはいつも芝の上にドレスの裾を広げ、小さな花々を摘み花飾りを作る自分。
 近くには大理石でこしらえた円形の東屋があり、そこで茶を嗜む自分の母とセヴランの母である王妃。
 そして、何歩か下がった場所にはいつも彼がいた。

「……」
 
 思い出してソニアは思わずジッと彼を見つめた。

「どうしました? 姫君」
 
 目を逸らされるほど嫌悪されていたのに、忘れたかのように急に自分をしげしげと見つめだしたソニアに、クリスは瞳を瞬かせる。

「髭」

「髭?」
 
 ああ、とクリスは自分の髭をなぞる。
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