呪われ姫と強運の髭騎士
(頭が足りないというか、素直すぎるというか……)
 
 パトリスは こいつのことは後だ、と苦息を吐くと、ソニアを見つめた。
 
 あの周囲まで華やかにさせる笑顔はすっかりと潜め、堪えるように拳を握る手に視線を落としている。
 
 ヒヤシンスブルーの瞳は、濁って何も写していないかのようだ。

「……ソニア、やはり今の君に話すのは難しいと私は思う」
 
 パトリスの言葉に、ソニアは俯いたまま拒絶に頭をふる。

「いいえ、お話し下さい。知らなくては……! クレア家の主人として知っておかなくては。父や母、そして兄達が相次いで亡くなったことと、今、私の周辺で起きている怪奇現象に深く関わることなら――尚更です !」
 
 ソニアの悲痛とも取れる言い方にパトリスは尚も躊躇っていたが、横からクリスが口を挟んだ。

「王、 周囲には断続的に噂になっていると姫君は知っております。漏れてくる噂に振り回されるよりかは、王の口から真実をお話しされた方がよろしいかと」
 
 しばらく沈黙があり、王は冷めた紅茶に口をつけた。
 
 あっという間に飲み干すと、決意をした顔付きでソニアを真っ直ぐに見つめる。

「ソニア。真実を聞いて、君は多分大いに取り乱すだろう」
「……」
「しかし、君を助けたいと働きかけている者達がいることを、胸に留めていてくれ」
「……はい」
 
 ようやく顔をあげたソニアの憂いに濡れた表情を、パトリスは悲しく思いながら口を開いた。

「クレア家は国随一の財力を誇る。それはソニアの祖父・ウィリアムの代が最盛期だった」
 
 パトリス王は静かに語りだした。
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