呪われ姫と強運の髭騎士
「お祖父様のご遺言だと聞きましたけど、家を継ぐご長男様が受け継げば良いのではなかったでしょうか?」

「我が家は代々武人を選出している家系です。それでも時代でしょうか、武人の道を選ばないで他の職につく兄弟も出てきました。今武人をしているのは長子と私だけでしてね、祖父はこの現状に不満があって、どちらかが万が一大事になってもコルトー家の家訓を絶やさぬようにと、亡くなる前に私にも命じたわけです」

「……はあ……」
 
 そう切々に語られ、ソニアはガックリと肩を落とす。
 
 家訓はその家独特のもので、たまに意味の分からない変わったものを家訓にする家もあると聞いていた。
 ソニアにとって、コルトー家の家訓は奇妙なものと断言しても良かった。

(それでも……!)
 
 彼が結婚相手というなら、これからも一緒に生活をしていかなくてはならない。
 
 どうしてもどうしても、髭だけは剃ってほしい!
 
 ソニアは勇気を振り絞る。

「あの……では髭は剃っていただくわけにはいかないのでしょうか?」
「家訓ですから」
 きっぱり速攻で断られた。

「……どうしても?」
「はい」
 
 更にどきっぱりと断られる。
 
 真っ直ぐに真剣な面持ちで拒絶され、ソニアは
「そうですか……」
と小さく呟くと、俯く。
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