呪われ姫と強運の髭騎士
 ソニアの手と共に、クリスは剣の束を握る。

「さあ!  私の声に続いて、言葉を詠唱してください」
「は、はい!」
「地のもろもろの国よ 神のまへにひざまつけ。主の導く先に――」
「地のもろもろの国よ神のまへにひざまつけ。主の導く……駄目です。一度に覚えられません……」
 
 一度で暗唱できない……自分の記憶力の程度を確認したソニアは、先程の覇気が瞬く間に萎んでいく気がした。

「では、倒す! 絶対倒す! 呪いなんかに負けるものか!――と気張ってください」
 
 クリスの言葉に、ソニアは再びやる気がはいると素直に頷く。足を広げて力を込めた。

「悪魔が一番怖いものをご存じですか?」
 
 急に聞かれてソニアは「いいえ」と振り向き様に首を振る。

「一つは、自分の正体を見破られることです。奴の正体はすでに私が名を呼びあてています-――それはクレア家に飾られた宗教画にヒントがありました」
「あの、髭を生やした神の?」
「それだけでも奴の力は半減します。――そして、二つ目は」

 ソニアが剣の束を握る手に重なっている、クリスの手が更に強くなる。

  悪の元凶の前に構えながら進む。

 その為の勇気をソニアに与えるように。

「揺るぎない決意。どんな誘惑をもはねつける意志! 悪魔に付け入る隙のない強い心! それに――」
 
 クリスはそこで言葉を止めて、ソニアに笑いかける。

「神から授かった最高の強運を持ち合わせた私が、ソニア様に付いています――我々は負けない! ソニア様、行きますよ!」
「はい!」
 
 ソニアは笑顔でクリスに返事をし、前を向いて悪魔を見据えた。
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