呪われ姫と強運の髭騎士
「そうだ、手紙に綴られていたご相談の事ですが……」
 
 クリスに唐突に尋ねられて、ソニアはチーズを喉に詰まらせそうになる。
 
 ――忘れていたわ……
 
 一瞬焦ったソニアだったが、この話を引き合いに出せば、告白しやすいのでは、と思い直した。
 
 そう覚悟を決めてしまえば、冷静になれた。
 
 グラスの中のシャンパンを空けると、テーブルに置く。
 
 それからアイマスクを外した。

「はい……あの事件からしばらく経って、国中に『クレア家の呪いが解けた』と情報が広まったようで……。突然、面識の無い方々からの贈り物や、パーティーの招待状が届くようになったんです。それならまだしも、クレア城付近で遠乗りでここまで来た、水を一杯くれないか? とか、道に迷ってしまって一泊宿を頼みたいとか――殿方が連日にやって来て……」
 
 ソニアは思い出して、つい溜息を付いた。
 
 呪いが解けたと知った途端に、このモテ方――ついていけない。
 
 マチューや執事頭、それに侍女頭に対応を任せてあるが、それらをかいくぐってくる若者達もいる。

「中央教会の司祭達が、ここぞとばかりに宣伝して回っておりましたからな……。布教に寄付金を集めるチャンスだとはいえ……」
 
 クリスもアイマスクを外しながら唸る。気難しい表情をしていた。

「流石に自粛するように、王からの勅命が下されても……」
「はい……皆様の勢いは収まりがありませんでした。驚いたのは城壁を登って部屋に侵入しようとした方がいて……」
「――えっ? 泥棒ではなくて、ですか?」
 
 ソニアは無言で頷く。
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