呪われ姫と強運の髭騎士
「たまに熱心な若者が、無謀なことをやるらしいですが……ソニア様には危害は?」
 
 心配そうに覗きこんでくるクリスの顔を、恥ずかしくて見れないソニアは顔をそらした。
 
 それを、
『何か如何わしいことをされた』
と読み取ったクリスの顔から、余裕が消えた。

  代わり、身震いが起きるほどの怒りが彼の身体中を支配する。

「……おのれ! ソニア様の純潔を!  誰なのです!  奴は名を名乗りましたか!  まさか名乗らずに逃げたのではありますまいな!  顔は? 特徴は!」
 
 急に沸騰した湯のように全身を真っ赤にし怒りだしたクリスに、ソニアは慌てて話を続けた。

「だっだっ大丈夫です!  なにもされていません! というか、なにもされていないどころか、私の部屋に忍び込む前に転落してしまったんです」
 
 シューゥゥ……と音を立てて、クリスの熱が冷めていく。
 
 それを見てソニアはホッと安心した息を吐いた。

「――その一件があって……私、早いうちに結婚した方が、周囲の熱が収まってくれるんじゃないかと考えて……その、色々考えたんです」
「……そうでしょうね……お決めになった方が、落ち着くでしょうね」
 
 ソニアは息を大きく吐く。

 ――言うのよ、ソニア。

「私、出来れば、歳上で包容力があって、明るくて、逆境を跳ね返す力があって、腕っぷしも良くて、どこかお可愛らしい方が良いと……思って……」
「歳上で包容力があって、明るくて、逆境に強くて、腕っぷし……剣の腕前ですかな? それでお可愛らしい……顔がですか?」
 
 ウームとクリスは考える。
 

 ソニア様には、どうやらこれに当てはまるお方に恋をしていらっしゃるようだ――クリスは考えるふりをしながらも、消沈していた。

(なら、せめてソニア様の想う相手と添い遂げさせよう)
 
 そう思っていた時だ。


「クリスフォード・コルトー様をお慕い……して……います」




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