呪われ姫と強運の髭騎士
◇◇◇◇
 
 ソニアは、自分にあてがわれた二階の個室のベランダに出て、一人夜空を眺めていた。
 
 はっきりと夜空を写す月は、欠けることなく金の光で柔らかくソニアを包んでくれている。
 そんな優しく感じる月の風情にも、ソニアの胸のうちを晴らすことはできずにいた。

 ――気付くべきだった。

 この屋敷に入ってからの使用人達の様子に。
 
 修道院から外へ出るのがあまりに久し振りで、父と親しかった侯爵と会ったのが懐かしくて、人の顔色まで見ている余裕がなかった。
 
 おかしいと気付かなかった。
 
 最低限しか揃えていない人員。
 そして部屋付きの侍女は自分を見てオドオドとし、必要以上に顔色を伺っていること。
 用がなければ、さっさと引き上げたさそうにしていること。
 
 畏怖たる存在に恐れながら、嫌々仕えているような――
 
 夫人の様子を見て、ソニアの外界を見る目が段々と現実を見定めてきている――自分自身、そう感じていた。
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