呪われ姫と強運の髭騎士
(でも、何故……?)
 
 侯爵は飛び込んできた自分を、怖がらずに抱き締めてくれた。

(もしかしたら、私が怖いのに無理をなさって?)
 
 そう思うとソニアの瞳から涙が溢れてくる。
 
 ――どうして?
 
 昨日から、少しずつ蝕んでいくような変化が怖い。

(私は他の人から見たら、どこかおかしいの?)
 
 自答自問する。
 答えの出ない問いに頭をもたげていると、扉を叩く音にソニアは身体を向けた。
 
 そう言えば、しきりに退出したがっていた侍女は下げたことを思いだし、ソニアは自分で応対することにした。

「どなた?」
「私です、姫君。クリスフォードです。お休みのご挨拶をと、参上しました」
 
 途端に、黒く渦巻くように胸がざわつく。
 
 この、気分が悪くなるような胸騒ぎはなんなのか?
 クリスの声を聞くだけで、気分が悪くなるのはおかしい。

(頭の中では、こうして折り目正しく挨拶に来てくださることが、とても嬉しいと言っているのに)
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