呪われ姫と強運の髭騎士
「……如何しましたか? もうお休みになるところでしたでしょうか?」
 
 再度、扉の向こうで尋ねてくるクリスにソニアは申し訳なく、気分の悪さを無理矢理はねのけ
「今、開けます」
と扉を開けた。
 
 小麦色の髭で覆われた顔と視線を合わせれば、くらりと目眩を感じるソニアだった。
 
 だが、ドレスに隠された足を踏ん張り、どうにか回避して笑顔を作る。

「クリス様、わざわざご挨拶に来ていただいて、ありがとうございます」
「いえ、明日の出立は早うございます。今日は久し振りに外に出て馬車に揺られ続けたから、お疲れでしょう? ごゆっくりお休みにな――」

「――うるせえよ、だったらノコノコやってこねーでさっさと寝かせろよ、幼女好きが」

 二人、唖然とした。
 
 男の低いダミ声――それがソニアの口から発せられたものだと、一瞬止まった思考が猛烈に動き確信される。
 ソニアは慌てて口に手を当てた。

「え? えっ? 何? 今の? 私? 私が言ったの?」
 
 急速に真っ赤に染まるソニアを見てクリスは
「ハッハッハ! 確かに就寝前のご令嬢に失礼でしたな。いや、申し訳ない」
と豪快に笑い飛ばした。

「いえ! そんなことは決して! う、嬉しかったです! 私、少々落ち込んでいたものでしたから!」

「どうしたのです? 私でよければ相談してください。婚約者なのですから」

 ――婚約者
 
 そこを強調して話すクリスに、ソニアは何故か苛立った。

(何を苛立っているの? ソニア。婚約者が心配するのは当たり前でしょう?)
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