呪われ姫と強運の髭騎士
 ソニアは、痛くなる程の胸の動悸を感じながらクリスの顔を見る。

「結婚式は、しばらく後にしませんか?」

「……えっ?」
 
 思いがけない言葉にポカンとしたソニアに、クリスは理由を告げた。

「私と姫君は確かに初対面ではありませんが、もう大分昔の話。しかも貴女が幼い頃の時です。修道院から出てすぐに、しかもこんな年上のおじさんでは、なかなか馴染まないと思いましてね」
「いえ、そんな……。おじさんなんて……」
 
 会った時は気を失う程に衝撃を受けたが、それは迎えに来る人がセヴラン様だとずっと思い込んでいたからであって。
 
 それに――髭面に驚いたのもある。
 
 別に年上の人が嫌い、というわけではないのだと今回の帰郷で気付いた。

(……クリス様みたいなお方なら――)
と思うのに。
 
 ――どうしても髭が嫌。それに付随する毛深さも駄目。

「もう少しお互いに知り合って、心安くなってからでも良いかと思いましてね」
 
 もっと時間をかけていけば、彼の髭や毛深さが気にならなくなるかしら?
 
 確かにこのまま結婚したら、まともな新婚生活が送れないだろう。夫婦仲が最悪になるかもしれない。
 
 ――でも
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