呪われ姫と強運の髭騎士
「どうしたのかしら?」
 
 クリスが小窓を開ける。

「どうした?」
 
 クリスの声に、御者が困ったように近付いてきた。

「ぬかるみに、はまってしまいまして……」
 
 そう言われれば、馬車が若干片寄っている。

「そんな深くは、はまっていないようだな。私も降りて手伝おう」
「いけません! 私らでやりますからクリスフォード様は中にいてください」
「濡れてしまいますから、クリスフォード様はソニア様とご一緒に中に!」
 
 降りようと扉を開けるクリスを見て、兵士達は慌てて止める。

「これから私のことを『クリス』と呼ぶなら中で大人しくしているが?」
 
 ――主人の未来の旦那を、馴れ馴れしく愛称で呼べるか――
 
 皆、黙り込んでしまった。

「みんな、クリス様の手をお借りして」
 
 それを黙って聞いていたソニアは、おかしさにクスクスと笑いながら外の兵士らに頼んだ。
 
 兵士らも渋々承諾し、クリスが馬車から降りようと、足を地に着けた瞬間だった。
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