反逆の騎士長様
私は、ラントに向かって早口で尋ねる。
「王子様は、いつ帰ってくるの?」
ラントは、険しい顔で静かに答えた。
「ジャナルが裏から手を回しているようで、王子はまだ、このことを知らない。
視察先で仕事を任されて、当分ノクトラームには帰ってこないんだ。」
…!!
そんな…!
じゃあ、私はこのまま何も気付かなければ、ずっと大臣に騙されたままこの部屋から出させてもらえなかったってこと…?!
「あの、なんで私がこの国に連れてこられたのか知ってる…?
私、一応、王子様と結婚する予定で来たんだけど…」
私がおずおずと口を開くと、ラントは
ちらり、と私を見て言った。
「王達や騎士長の呪いを解かれたら困るし、この状況が周りの国にバレた時にお前を何かしらの方法で使うつもりだったんだろ。
まー…、一言で言えば“人質”だな。」
ひ…人質?!
夢のようなスイート新婚ライフを想像してたのに…
真逆じゃない!!
私は、くらり、とめまいがして、額を押さえた。
嘘…でしょ。
だれか、嘘だと言って…。
…よく考えてみれば、おかしいところはたくさんあった。
私、ノーテンキに本なんか読んでくつろいでいる場合じゃなかったんだ。
私は、ラントに向かって尋ねる。
「そういえば、“騎士長様”の呪いって、どういうことなの?」
“様付け”に満足したような様子のラントは、真剣な顔で私に答えた。
「ジャナルが一人で城に戻ってきた時、それを不審に思った騎士長のロッド団長は、ジャナルを問い詰めたんだ。
ジャナルは、ロッド団長の力を恐れて団長に呪いの魔法をかけ、反逆者として地下牢に投獄した。」
…!
ロッド…様…って人は、ジャナル大臣の不正に気づいて、逆らおうとしたんだ。
そして、返り討ちに呪いを受けて、鎖で繋がれてしまった…。
「他の騎士団の人達は何も言わないの?
騎士長様が投獄されたっていうのに…」
すると、私の問いかけにラントは眉を寄せて答えた。
「ジャナルが、騎士団全員に魔法をかけて、操っているんだ。
仲間はみんな、ロッド団長を反逆者だと思い込まされている。」
っ!
操られているの…?!
私は、ふとラントに尋ねた。
「あの…、ラントは操られていないの?
ラントも、騎士団の人なんでしょう?」
ラントは、さらり、と答える。
「俺は酒場で喧嘩して、つい昨日まで自宅謹慎だったからな。
ジャナルが騎士団に魔法をかけた時、その場に居合わせなかったんだ。」
“自宅謹慎”?
ラントをまじまじと見つめると、赤い短髪、耳にピアス、腕や頬の傷の跡がある。
私は、妙に納得して頷いた。
「ラントは、“不良騎士”なんだ…?」
「そのおかげでお前に会いに来れたんだろ。
なんか文句あるか。」
「い、いや。ないです。」