反逆の騎士長様


私とラントは、黙ってクロウを見つめた。


…この人は、ジャナル大臣の命令で罪を重ねてきた。


でも、それはこの城を守るためでもあったんだ。



「…ねぇ、クロウ。」



私は、彼の名前を呼んだ。


微かにこちらに視線を向けたクロウに、私は言葉を続ける。



「…どうしてあの時、港町の旅館で私を逃したの?

命令に背いたら痛めつけられるって分かってたんでしょう…?」



「!」



クロウは、小さく肩を揺らした。


彼はまつげを伏せて、顔を背ける。


静まり返る部屋に、クロウの小さな声が響いた。



「…あんたの涙を見て……

…リディナが頭をよぎったんだ。」



…!



クロウは、ふっ、と目を閉じた後、ゆっくりとこちらに体を向けた。


そして彼は、ソファの側に座り込んでいた私をまっすぐ見つめて口を開く。



「…悪かった。強引な真似をして。」



はっ、とした。


クロウは、それ以上は言わなかった。


彼の言葉が全てだと、私も感じた。


私は彼を見上げて答える。



「…あの時のことは、お互いなかったことにしましょう。

私は大丈夫。…キスも“ノーカウント”に
してもらったから。」



クロウは小さく呼吸をした。


そして、何かを察したように目を細める。


その時、クロウが、すっ、と立ち上がった。


ちらり、とわずかに開いている部屋の扉へと視線を向ける。



…?


どうしたの…?



微かにクロウの纏うオーラが変わった気がした。

魔力が少しずつ流れ出す。


クロウは一瞬だけ鋭い瞳をしたが、すぐに扉から顔を背けて呼吸をした。



< 104 / 185 >

この作品をシェア

pagetop