反逆の騎士長様
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《ロッドside》
「…気づかれたな。」
アルトラが、俺の隣で呟いた。
クロウは、廊下で密かに様子見していた俺たちの存在に気づいたようで、こちらに鋭い視線を向けている。
…さすが、この城の騎士長だっただけある。
魔力を消して近づいて来た俺たちに気づくだなんて。
ラントは少しも気が付いていないのに。
アルトラが、俺の隣で小さく言った。
「今のクロウは、セーヌさんを人質に取ろうとしていないようだ。
いざとなったら部屋の中にはラント君もいるし、今は黙ってここにいよう。」
「…そうだな。」
俺が小さく答えると、アルトラは部屋の中をちらり、と見ながら言葉を続けた。
「それにしても、セーヌさんがクロウを助けるだなんて驚いたな。そのまま連れ去られてもおかしくなかったのに…。
彼女には善意の心しかないのか?」
「…姫さんはそういう人だ。
恐怖や敵対心があったとしても、きっと姫さんは揺るがない。」
アルトラは、俺の言葉に「…確かに。分かる気がするよ。」と答えた。
アルトラの瞳の色が濃くなったような気がしたが、俺はそのことには触れず、心に芽生えた動揺を押し込める。
俺たちは部屋の扉の影に身を潜め、部屋の中の様子は見れない。
いわゆる、“盗み聞き”状態だ。
…危険な音がしたり魔力を感じたらすぐに突入しよう。
俺は、殺気を殺しながら剣へと手を伸ばす。
廊下が緊張感で包まれる中、部屋の中からクロウの声が聞こえた。
「……一つだけ、いいか。」
「何ですか…?」
姫さんの声も聞こえる。
俺とアルトラが二人の会話に耳をすませた
その時
クロウが、俺の予想だにしなかった言葉を口にした。
「…あんた、あの騎士長のことを相当信頼してるようだが…
無防備すぎると余計な感情に流されるぞ。」