反逆の騎士長様



ドスの利いたラントの声に、慌てて答えるとラントは落ち着かない様子で私に言った。



「これで大体、話は掴めたか?早くロッド団長のところへ行くぞ。

団長は、呪いで体力を奪われているだけで、本来の力なら自力で鎖を断ち切って牢から脱出できるはずなんだ。」






そうなんだ…!


もしかして、ジャナル大臣が“地下牢に近づくな”って何度も言っていたのは、私に騎士長様の呪いを解かせない為…?



「分かったわ…!

ラント。地下牢に案内してくれる?」



私の言葉に、ラントは力強く頷いた。



よし…!


私はまだ未熟だし、どれだけ出来るか分からないけど

私の力が役に立つなら、早く騎士長様の元へ行かなくちゃ…!



しかし、走り出そうとしたその時

部屋の扉が、バン!と開かれた。



私とラントが驚いて扉の方へと目をやると、そこには複数の騎士達とジャナル大臣の姿があった。



ぞくり…!



体が震える。



「おやおや、姫様。どちらへ向かわれるのですか?

そんな“はぐれ者の問題児”の言うことなんて信用してはいけませんよ。」



ジャナル大臣が、一歩部屋に足を踏み入れながら私に言った。


声色はとても穏やかだが、目が笑っていない。

大臣の藍色の瞳が、鈍く光ったような気がした。


私が、ぐっ、と手のひらを握りしめると、隣に立つラントが大臣に向かって叫んだ。



「そこをどけ、ハゲ。

ロッド団長よりはるかにポンコツなチキン野郎が。早く仲間にかけた魔法を解け…!」



…!


ラントは怖気付くことなく、問題発言を連発する。


ジャナル大臣は、そんなラントを一瞥して、私に向かって言葉を続ける。



「姫様。地下牢には近づかないと約束しましたよね?

以前お話しした通り、騎士長は見境なく人を斬る獣です。たとえ女性とはいえ、容赦はしないでしょう。」



ごくり…。


私は、喉を鳴らして大臣を見つめた。


部屋に緊張感とともに沈黙が流れる。


私は、すぅ、と息を吸い込んで、大臣に向かって言い放った。



「…私は、人を疑うことはしませんが、自分の信じるものは自分の目で見て決めます。

大臣、そこをどいていただけますか。」



「…!」



私の言葉が予想外だったのか、ジャナル大臣は微かに顔を引きつらせた。

ラントは隣で小さく口角を上げている。


その時、ジャナル大臣が、ふぅ、と息を吐いた。


そして、すっ、と目を細め、私たちを見つめる。

その瞳は今まで見たことがないほど、冷たく鋭いものだった。



「…この部屋で大人しくしていると言うのなら、先ほどの発言は忘れて差し上げます。

姫様、本気で地下牢に行くおつもりですか」



「はい。前言撤回するつもりはありません」



すると、大臣は、微かに顔を伏せ、すっ、と一歩下がった。



え…?

部屋から出してくれるの…?



私とラントが動揺して見つめていると、ジャナル大臣は後ろに待機していた騎士達に向かって声を張り上げた。



「この者達を捕らえて、ここに閉じ込めておきなさい。

決して部屋から出させるんじゃありませんよ」



「「!!」」


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