反逆の騎士長様
いつもと少し様子の違うロッド様に首を傾げるが、ロッド様は何事もなかったかのように食事を続ける。
すると、アルが微かに口角を上げてロッド様に声をかけた。
「ロッドも一緒に行くか?
たぶん、ここの書庫にはお前の好きそうな魔法書もわんさかあるぞ。」
「…いや、俺はいい。」
ロッド様は、カチャ…、とフォークを置いて皿を手に取った。
そしてそのままキッチンの方へと向かう。
…?
もう食べ終わったの?
すると、ロッド様の後ろ姿を見送っていたアルが椅子から腰を上げて呟いた。
「…鈍いんだか自分を律してるんだか分からないな。」
「え?」
私がアルの方を向くと、彼は「何でもないよ。」と微笑んだ。
そして、アルはそのまま「じゃあ、後でね」と言い残してコツコツとダイニングを出て行く。
私の隣に座っていたラントは、どこか様子がおかしい年長者組の背中を、眉を寄せながら見つめていた。
「ねぇ、ラント。」
「…あ?」
私の方をちらり、と見ながら反応したラントに、私は続ける。
「ロッド様、具合でも悪いのかな。
全然、食べてなかったよね?」
「…確かに、いつも以上に無表情だったな。
なんか難しいことでも考えてるんじゃないか?ジャナルとの決戦も近いし。」
…そっか。
荒れ地で王と王妃を助け出して、ジャナルの呪いを解くことがこの旅のゴールで、それとともに城の未来を左右する戦いが始まろうとしてるんだもの。
色々考えて当然だよね。
…旅が終わったら…私はどうなるんだろう。
今は仮だけど、契約通りにアルのお嫁さんになって、ノクトラームの姫になるのかな。
私はそこまで考えて、ふと思った。
そしたら、今みたいにロッド様やラントの側にいることがもう出来なくなるんだ。
その時、クロウの姿が頭に浮かんだ。
彼も、この城の騎士長で…リディナ姫と駆け落ちしようとした。
ノクトラームで大きな戦があるとすれば、ロッド様もクロウのように戦地に赴くことになる。
話をする時間もなくなるかもしれない。
ロッド様の呪いが解けたら…きっと、もう手を繋ぐことすらしなくなるんだ。
その時、心の中に何とも言えない淀みが生まれた気がした。
なぜだか分からない。
ただ、その存在だけははっきりと自覚できた。
「とにかく、今は荒れ地への隠し通路を見つけることだけを考えようぜ。」
ラントは、そう言って席を立った。
…そうだよね。
未来のことなんて、今から分かるはずがない。
何が待っていようと、私が出来ることはただ一つ、“呪いを解くこと”だけだ。
私は小さく息を吸い込んで、最後のパンを口に運んだ。