反逆の騎士長様
はぁ…、とロッド様は小さく呼吸をした。
耳元に微かにかかる息に、心が震える。
…何を意識してるんだ、私は。
今までだって、浄化は何度もしてきたじゃないか。
…そうだ。
あの日から……
あの、港町でロッド様に手のひら越しにキスをされた時から…
私は何かが変わってしまった。
ロッド様の声に、香りに、無意識のうちに反応してしまう自分がいる。
「…姫さん。」
「っ!はい…?」
つい、ぴくり、と肩を揺らして答えると、ロッド様は小さく息を吸った。
そして、意識しなければ聞き逃すほどの小さな声でぼそり、と囁く。
「…アルトラの嫁になるのか…?」
「え…?」
時が、一瞬止まった気がした。
思いもよらぬ言葉に目を見開くと、ロッド様は小さく身じろぎをして言葉を続けた。
「…いや、独り言だ。答えなくていい。」
「は…はい。」
ロッド様が私を抱き締める腕に、少し力が入った気がした。
ロッド様は、それ以上何も言わなかった。
…どうして…
そんなことを聞くんだろう。
私は、“そうです”としか言えないのに。
ロッド様が、一番よく分かっているはずなのに。
ひゅう、と夜風が頬を撫でた。
ロッド様が、ゆっくりと私から離れる。
彼を見上げると、顔色は悪くないようだ。
私は、そんなロッド様に向かって尋ねる。
「夕食をあまり取っていないようでしたけど
…あの時から体調が悪かったんですか?」
「…!
あぁ……まぁ、そんな感じだ。」
ロッド様は、どこかぎこちなくそう答えた。
そして、私を見ながら言葉を続ける。
「もう大丈夫だ。
…悪かった。急に連れ出して。」
…!
「いえ…。」
私は、ロッド様につられるようにして、ぎこちなくそう答えた。
…もし、あの時ロッド様が来なかったら、私はアルとキスをしていたんだろうか。
あのタイミングは、“偶然”だよね。
ロッド様の呪いが進行していなかったら、私をわざわざ連れ出すわけないもんね。
…変な考えを巡らせるのはやめよう。