反逆の騎士長様
どくん、と心臓が鈍く音を立てた。
アルトラは、コツコツと俺に歩み寄り、俺の隣にやって来る。
そして、バルコニーの柵に体を預けて頬杖をついたアルトラに、俺は覚悟を決めて声をかけた。
「……殴っていいぞ。」
「あはは…!そんなことしないよ。」
予想とは裏腹に、俺の言葉を軽く笑い飛ばしたアルトラは、目の前に広がる草原を見つめながら呟いた。
「珍しく余裕のないロッドの顔を見れたからそれでチャラにしてあげるよ。」
「…そんな顔してない。」
「してたさ。約二十年一緒にいて、初めて見たよ。」
穏やかな口調で言い切ったアルトラに、俺は何も言い返せなかった。
アルトラは、そんな俺の様子を見ながら小さく続けた。
「…僕、決めたことがあるんだ。」
俺は、アルトラの言葉に耳を澄ませる。
「荒れ地に向かって、全てに決着がついた後の話。
…僕は、君がなんと言おうと、セーヌさんを幸せにしてみせる。」
「…!」
「ロッド。そのために、君に聞いてほしい
“頼み”があるんだ。」
…“頼み”…?
“呪いが解けたら、姫さんに近づくな”とかいう類の話か…?
…それが当たり前のことだが…。
俺が身構えていると、アルトラは微かに目を細めながら言った。
「ロッド。僕はお前に───……」
アルトラが何かを言いかけた、
その時だった。
『〜……〜〜…!!!』
何やら、下の階から声が聞こえる。
姫さんとラントか…?
はっ、とした様子のアルトラは、バルコニーの扉の先へと視線を向けながら口を開いた。
「騒がしいね。何かあったのかな。」
「敵の魔力は感じないが…。」
俺がそう答えると、アルトラはトン、と俺の方に手を置いて歩き出した。
「話はまた今度にしよう。
僕の頼みをロッドに言うのは、お前がちゃんと呪いに打ち勝ってからじゃないと意味がないしな。」
…?
どういう意味だ…?
戸惑う俺に、アルトラは「行こうか」と言って俺とすれ違い、バルコニーの扉を開けながら待っている。
アルトラの言葉の続きが気になって頭の中が悶々としていたが、俺はその邪念を振り払うように呼吸をした。
そして、俺はアルトラとともに下の階へと走り出したのだった。
《ロッドside*終》