反逆の騎士長様
その時、アルが真剣な瞳をしながら私に言った。
「さっきのこと…ごめん。僕は、焦りすぎてたみたいだ。
僕は今、王子のアルトラではなく、ただの旅仲間のアルなのに。」
…!
私が小さく呼吸をすると、アルは私を見つめながら続けた。
「…今の旅人の僕は、何も言えない。
でもこの先、城に帰って王子に戻った時、セーヌさんに聞いてほしい“頼み”があるんだ。」
“頼み”…?
アルは、ふっ、と笑って優しく私を見つめる。
「…常識外れの頼みなんだろうけど…きっとセーヌさんなら受け止めてくれると思うから。
これだけは覚えておいて。僕が、セーヌさんを幸せにしたいって思うのは変わらないってこと。」
「アル……?」
彼が何を言おうとしてるのか
心の中を読み取ることは出来なかった。
ただ、アルの強い光を宿した瞳は、何か固い決心があるということを私に伝えている。
全てが終わったその先に、何があるというんだろう。
「…さ、この話はもう終わり。
行こうか、セーヌさん。明日は早い。」
アルは、ゆっくりと私に背を向けて歩き出した。
私は、そんな彼の背中を見つめることしか出来ない。
女神像の翡翠の瞳が、そんな私をまっすぐ映していたのだった。
第4章*完