反逆の騎士長様
私が、答えに迷っていた
その時だった。
「姫さん、迷う必要はない。騎士達から逃げるために俺を利用しろ。
浄化の契約のことなら、もう十分だ。姫さんが、俺のためにここに残って命を張る必要はない。」
そして、ロッド様は私を軽く抱き寄せた。
一瞬、時が止まり、ロッド様の声だけが耳元で聞こえる。
「…これが、“最後の浄化”だ。
今、この時を持って、姫さんとの契約を解消する。」
…!
さらり、とロッド様の漆黒の髪が私の頬に触れた。
「安心しろ。刺し違えても、ジャナルだけは姫さんの元に行かせない。
姫さんは姫さんにしか出来ないことをするんだ。あんたなら、きっとやれる。」
「…!」
はっきりとした口調で言い切られた言葉は、今まで聞いた中で一番凛とした声だった。
根拠なんてどこにもないのに、自然と勇気が湧いてくる。
どんなことでも、乗り越えられるような気がした。
すっ、と私から離れたロッド様の瞳は、浄化の光で淡く輝いている。
その時、アルが外套を翻しながら門へと体を向けた。
ロッド様も私に背を向けて剣を構える。
「アルトラ、右は頼んだぞ。」
「あぁ。」
二人の背中からは、迷いなど一切感じられなかった。
堂々とした広い背中は、何にも負けない信念が宿っているように見える。
「ラント、姫さんを頼む。」
「はい!ロッド団長も、どうかご無事で…!」
ラントが、ロッド様の言葉に答えたその時、アルが私に向かって叫んだ。
「セーヌさん、父上達を頼んだよ!
無茶はしないで…!」
「!はい…っ!」