反逆の騎士長様
「俺は死なない。
…何度剣を交えたところで、お前に勝ち目はない。」
クロウが、低くそう呟いて剣を抜いた。
ギラリ、と切っ先が光る。
「セーヌ、下がってろ。」
ラントが、私に背を向けたままそう言った。
私は、クロウから目を離さずに後ずさりをして彼らから距離をとる。
薄暗いシャンデリアが照らす広いホールに、殺気が立ち込めた。
…クロウの言う通り、彼が死ぬのはジャナル大臣が命を落とした瞬間。
いくらラントが優勢になっても、クロウを倒すことはできない。
私が、ごくり、と喉を鳴らした、次の瞬間
ラントが、タン!と地面を蹴った。
**
《ラントside》
ガキン!
二つの刃が激しく交わる。
力で押し負けないよう、必死に柄を握りしめるが、クロウは顔色一つ変えない。
…くそ…
さすが、元騎士長。
三十年以上たった今でも、剣の腕は衰えてないってことか。
樹海で戦った時にも思ったが、こいつには
“老化”がない。
筋力の衰えがない上に、戦闘の経験が積み上がっていくなんて、化け物にもほどがあるだろ…!
「っ!」
競り合いから一旦引き、クロウから距離をとる。
奴は焦る様子もなく、淡々とこちらを見つめていた。
…どうする。
奴がさっき言ったように、まともに戦えば俺に勝ち目はない。
長期戦に持ち込まれて、一瞬の隙を突かれたら終わりだ。
奴は不死身で、傷をつけられるとはいえ、治癒力も高い。
俺が奴に勝つには、何とかしてクロウの戦う理由を潰さなければならない。
…剣を折るか?
その時、クロウがトッ!と床を蹴り、俺との距離を一気に縮めた。
「く…っ!」
クロウが振り下ろした剣を紙一重で避ける。
喉元目掛けて切り返されるが、咄嗟に剣で受け止め、弾き返した。
…無理だ…!
実力差を勢いで押し切ろうとしても、奴の剣を砕くほどの力は、俺にはない。
何か、ないのか
奴の戦意を失わせる方法は…!