反逆の騎士長様
私は、牧草の山から滑り降りるようにして地面に降り立つ。
石造りの地面に足をつけると、コツ…、という音が辺りに響いた。
落ち着いて辺りを見回してみると、真っ暗で窓は一つもない。
光が差し込んでいる様子もなく、人の声や足音も聞こえない。
…最上階から、何階まで落ちたんだろう。
上を見上げてもラントが来る気配はなかった
…とりあえず一人で歩き回ってみよう。
きっと、追っ手が来たら足音で分かるよね。
私は、すぅ…、と呼吸をして、確かな足取りで歩き出した。
石造りの道の先に、点々と微かな灯りが見える。
近づいて見てみると、ランプの光のようだ。
私はランプを頼りに、光のある方へと歩いて行く。
狭い道だ。
数分進むと、道の両脇に鉄格子のようなものが現れた。
…!
私は、はっ!として立ち止まった。
もしかして…
ここが“地下牢”…?
私、最上階から地下まで落ちたんだ。
この階のどこかに、騎士長様がいる…!
私は、ぎゅっ!と手のひらを握りしめて、小走りで先へと進んだ。
…広い。
どこにも、人のいるような気配がない。
追っ手がいないのは嬉しいけど、これじゃあラチがあかない。
どこにいるの…?
と、その時だった。
鉄格子と壁の間に、細い道が続いているのが見えた。
それは今まで通ってきた道とはどこか違う。
壁一面に、魔法陣の呪符が貼られていた。
私は、引き寄せられるようにしてその道へと踏み込んだ。
…コツ…。
足音が不気味な道に響いた。
私は、覚悟を決めて足を進める。
やがて、道の突き当たりに大きな扉が見えてきた。
その扉は固く閉ざされていて、錆び付いている。
そして、あちらこちらに呪いの呪符が貼られていた。
…これは道の壁に貼られていたものと同じ…
加えて、扉の古さに比べて呪符は新しい。
ということは、この呪符が貼られたのは最近
…?
これは、侵入者を防ぐためのものなのかな。
それとも…
“誰か”の逃走を防ぐために……?
私は深呼吸をひとつして、扉に手を置いた。
ぐっ、と体に力を込める。
…ピッ
その瞬間
扉一面に貼り付けられていた呪符の一つに、小さく音を立てて亀裂が入った。
…ピリ…!
それにつられるようにして、すべての呪符に亀裂が入っていく。