反逆の騎士長様


…!



これは、“呪いの魔法”がかけられているんだ


私の体に流れる“浄化の血”に反応して、呪符の呪いが消えていく…!



…ギィ…!



やがて、低い音を立てて扉が開いた。


その先から微かに漏れる光に、私は、ごくりと喉を鳴らす。


そして、そのまま重い扉を力一杯押し、奥へと踏み込んだ。



「…!」



私は、扉の向こうに広がった光景に息を呑んだ。


牢の中は、ランプの光のみで照らされていて窓はない。


天井は蜘蛛の巣だらけで、床には巨大な魔法陣。

そしてその真ん中に一本の柱が立てられている。



「…いた…」



私は、無意識にそう呟いた。

柱の前に座り込む“彼”に目を奪われる。


ランプに照らされる漆黒の髪。

体に巻きつく魔法の鎖。


その時、俯いていた“彼”が、ふっ、と顔を上げた。


二人の視線が交わる。



…ドクン…!



綺麗な碧色の瞳が私をとらえた。



「…誰だ、あんた…。」



低く艶のある声が、地下牢に響いた。


ぞくり、と体が震え、短い言葉の中に敵意と警戒を色濃く感じる。


私は、魔法陣の外に立ち止まって口を開いた。



「私は、セーヌ。

先日、ノクトラームに嫁いで来た者です。」



「…!」



彼は、私の言葉に目を見開いた。


そして、警戒を解かぬまま私を見つめる。


私は、そんな彼に言葉を続けた。



「あなたが、ノクトラームの騎士長様ですか…?」



牢の中に、沈黙が流れる。

そして、少し目を細めた彼は低く答えた。



「…そうだ。俺はロッド。ノクトラームの騎士長だ。

…あんたは一体何をしに来た?ここは姫さんの来る場所じゃないはずだが?」



私は、彼の瞳を真っ直ぐ見つめながら言い放つ。



「ロッド様。私は、ラントに頼まれてあなたの呪いを解きに来ました。

…一緒にここを出ましょう…!」



「!」



ロッド様は、ぴくり、と眉を動かした。


そして、苦しげに顔を歪めながら答える。



「あんた…呪いが解けるのか…?」



「はい。出来る限り、浄化してみせます。」



私は、ゆっくりと魔法陣の中に足を踏み入れた。



…バチッ!!



足元から、電流のような痺れが体に流れる。



…!



思ったよりも強力な呪いのようだ。


そりゃそうか…。

最強と謳われているノクトラームの騎士団を率いる騎士長様の動きを封じている魔法だものね。


私は、一歩ずつロッド様に近づいていく。


目の前まで来ると、荒い呼吸をするロッド様が私を見上げた。


はだけている胸元から見える鎖骨の辺りに、歪んだ魔法陣のような痣がある。



…呪いの魔法が、ロッド様の体を侵食しているんだ。


早く浄化を始めないと、手遅れになる。



私は、ロッド様の前にしゃがみ込んだ。

そして見上げるようにして、彼に触れようと手を伸ばす。



その時、ロッド様の低い声が私の耳に届いた



「…やめろ。」



「!」



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