反逆の騎士長様
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「姫、こっちだ。」
クロウが、螺旋階段を上り終えた私に合図を送る。
私は、周囲を警戒しながら、最上階の部屋の扉の前にいるクロウの元へと駆け寄った。
「部屋の中に、騎士の魔力は感じない。恐らく、鎧達はいないだろう。」
クロウの言葉に若干、体の緊張が緩まるが、私は、心の中の不安が消えないでいた。
「…仲間が心配か?」
「え…?」
不意に尋ねられた言葉に、私はつい動揺してしまう。
すると、クロウは奥の扉のノブに手をかけながら、ゆっくりと口を開いた。
「心配しなくても、お前らの仲間は鎧の騎士に簡単にやられるような奴らじゃないだろ。
きっと、大丈夫だ。」
…!
私は少し驚いてクロウを見上げた。
敵対していた彼が、そんな言葉を言うとは思わなかった。
すると、クロウは少しの沈黙の後、言葉を続ける。
「…あの騎士長も、きっと呪いに殺される前にジャナルの魔力を奪うだろう。
今のうちに、次に会った時に伝える言葉でも決めておけ。」
その言葉が、私の心を軽くするための気遣いだということを、私は察した。
クロウは、私を見ずに小さく続ける。
「…お前達の関係は知らないが、少なくとも俺みたいにはなるなよ。
後悔を残すと、一生その影はまとわりつくぞ」
…!
クロウの言葉に、一瞬、私の脳裏にリディナ姫の姿がよぎった。
他の誰でもない、クロウの口から聞くからこそ、重く、深い言葉。
…“後悔”…か。
「…行くぞ。」
彼の低い合図に、私は無言で頷いた。
ギィ…!
厚い扉が、軋む音を立てた。
だんだんと露わになる、扉の向こう。
「「!!」」
その光景に、私とクロウは動きを止めた。
「この部屋…私が暮らしていた部屋じゃない…!」