反逆の騎士長様


私は、びくっ、として動きを止めた。

ロッド様は険しい顔をして私を見つめている



…もしかして、急に触れようとしたから警戒してるの…?



私は、慌てて口を開いた。



「私は、“触れる”ことで呪いを浄化するんです。

無意味にロッド様に触れようとしたわけではありません…!」



すると、ロッド様は静かに答える。



「あんたが呪いで閉ざされた扉を開けて魔法陣を踏み越え来たのはこの目で見た。

別にあんたの力を疑っているわけじゃない」



「…っ、じゃあ、どうして…?」



私の問いかけに、ロッド様は私から目を逸らさず言った。



「あんたは、この国の王子に嫁いできた
“姫さん”なんだろう?」



…!


ロッド様は言葉を続ける。



「大臣しか訪問していないのにもかかわらず姫さんのご両親が政略結婚に賛成したのは、“ノクトラーム”という名があったからだろう?

だが、蓋を開けてみればノクトラームは名だけで、内政は乱れ、国の基盤はぐらついている。」



私が黙って話を聞いていると、ロッド様は真剣なトーンで続けた。



「姫さんのご両親がこのことを知ったら、きっと政略結婚は破談になる。そんな国に、大事な娘を嫁がせられないと思うだろう。

…違うか?」



ロッド様の言葉が胸に刺さった。


ロッド様は苦しそうに呼吸をしながら続ける



「姫さんが呪いを浄化して俺をここから逃がせば、姫さんもジャナルに追われる身となる。

すぐにここから立ち去れ。…姫さんを巻き込むわけにはいかない。」






私のために…ここに居続けることを選ぶってこと…?


二人の間に、沈黙が流れる。


ロッド様は黙り込んだまま、再び顔を伏せて苦痛に耐えるように小さく声を漏らした。



…。



私は、ぐっ、と手のひらを握りしめる。


そして、ロッド様に向かって静かに声をかけた。



「…失礼します。」



「あぁ、それでいい………」



ロッド様がそう言葉を続けた時

私は彼の頬に、そっ、と手を添えた。



「!」



ロッド様がぴくり、と反応し、驚いたように顔を上げた。

至近距離で視線が交わる。



パァァ…



ロッド様の瞳が、淡く輝きだした。

顔色がどんどん良くなっていく。


私は、声も出せずにただ目を見開いているだけのロッド様を見つめながら、ゆっくり手を離して口を開いた。



「…すみません。呪いが体に刻まれすぎていて、すべては浄化しきれませんでした。

お体はどうですか…?」



ロッド様は、はっ!として答える。



「…だいぶ楽になったが……

どうして俺を助けた……?」



動揺している様子のロッド様は、眉を寄せて私を見つめた。



…そんなの、決まってる。



私は、彼から視線をそらさずに言い切った。



「“姫だからこそ”、あなたを置いて逃げるわけにはいかない、と思ったからです。

ここで何もせずに立ち去ったら、私を命懸けで逃がしてくれたラントに顔向け出来ませんから。」


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