反逆の騎士長様


ロッド様は、私の言葉に目を見開いた。


そして、ぽつり、と呟く。



「…本来、騎士は王族を守る為に自分を犠牲にするのが仕事だ。

姫さんが騎士の為に自分を犠牲にするなんて聞いたことがない。」



ロッド様は、信じられない、といった顔だ。


私はそんなロッド様に、にこり、と笑いかけて答えた。



「王族を守ることが騎士の仕事なら、“国民”
を守ることが、王族の仕事です。

ロッド様やラントもノクトラームの立派な
“国民”ですから、守るのは当然のことです」



「!」



ロッド様は、二、三回大きくまばたきをして私を見つめた。

そして、微かに優しく瞳を細めて呟く。



「……変な姫さんだな。

アルトラと同じことを言うなんて…。」



…!


“変”?


私は、その言葉にも引っかかるものがあったが、それ以上にロッド様の口から出てきた名前に反応した。



「“アルトラ”って王子様の名前ですよね?」



確か、ジャナル大臣が王子様の名前を“アルトラ”だって言っていた。


すると、ロッド様は私の言葉に頷きながら答えた。



「あぁ。

俺は幼い頃からこの城で騎士として育てられたから、王子のアルトラとは“幼馴染み”みたいなものなんだ。」



へぇ…!


主従関係があるにも関わらず呼び捨てで呼ぶなんて、仲がいいんだな…!



するとその時、ロッド様が何かを思いついたように私を見た。

そして、静かに口を開く。



「姫さんは政略結婚で嫁いできたとはいえ、アルトラに会ったことがないんだよな?」



「!はい。一度もないです。」



出来れば、ちゃんとお会いして政略結婚のことや国のことをお話ししたいんだけど…


と、その時。

ロッド様が何かを覚悟したように小さく呼吸をして、パァッ!と碧眼を輝かせた。



ガシャン…!



その瞬間、ロッド様を拘束していた魔法の鎖と手錠が破壊された。



…今のは、“魔法”…?



そこで、私は、はっ!とする。



私がロッド様の呪いを少し浄化したから、魔法を使う力が回復したんだ…!



ロッド様は、ゆっくりと立ち上がった。


青いマントがひらりとなびいて、目線が私の上に来る。


すると、ロッド様は静かに口を開いた。



「姫さん。」



「!はい。」



私が返事をすると、ロッド様は綺麗な碧眼で私を見つめながら言葉を続けた。



「今から俺はここを出て、隣国にいるアルトラに国の状況を伝え、合流して王と王妃を助け出しに行く。

姫さんは、俺がこの城を抜け出す時に混乱に乗じて逃げ出してもいい。もし捕まったら、無理やり脅されて仕方なく呪いを解いた、と俺を売ってもいい。今なら、まだ引き返せる。」







「…だが、俺の呪いはまだ進行しつつある。

王と王妃を助け出す前に、呪いに殺されるかもしれない。」



ロッド様の言葉の裏に隠された思い。



“俺と共に、来てくれないか”



直接口に出されたわけではないが、迷いに揺れる瞳がそう語っていた。


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