反逆の騎士長様


彼は、きょとん、とする私に向かって囁いた。



「俺はもう、騎士長を引退したんだ。

さっきもそう言っただろ、“セーヌ”。」


…!


不機嫌になった理由に気づいた私は、つい
かあっ、と赤くなる。


可愛く拗ねている彼は、今まで見たことのない顔だ。



「ロッド…さん?」


「“ロッド”でいい。敬語もなしだ。」


さらり、とそう答えた彼に、私はおずおずと口を開く。



「…ロッド。」


「ん?」


「ありがとう。…これからも、ずっと、隣にいさせて。」


「当たり前だろう。」


優しい声が、私の耳をくすぐった。


ロッドは、小さく微笑んで立ち上がる。


そして、私にまっすぐ手を差し出した。



「ん。おいで、セーヌ。」



それは、始まりの日と同じ言葉。



「うん…!」



私は、彼の手を取った。


すると、そのままぐいっ!と引き寄せられる。


ぐらり、と視界が揺れて、彼のたくましい胸に抱きとめられた。


そして、次の瞬間。

彼の漆黒の髪が、さらり、と私の頬に触れた。



───ちゅ。



一瞬掠め取られた唇に、私は目を見開く。


その場で硬直していると、彼は何事もなかったかのように歩き出した。



「…い、今のは…?」


「ん?“誓いのキス”。」



さらり、と返された言葉に、私は顔を赤らめることしか出来なかった。


… 出会った頃から、私達は何度も手を繋ぎ、抱きしめ合って、時には口付けを交わしてきた。


しかし、今のキスは今までの愛のなかった触れ合いとは違う。


それは、世界で一番優しく、甘い愛のキス。



第5章*完

*fin*

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