反逆の騎士長様
!
私とラントは、はっ!とした。
…確かに、ここでロッド様とラントが騎士達を斬ってしまったら、もし隣国から攻められた時にノクトラームを守る人がいなくなってしまう。
仲間に情けをかけているわけじゃない。
ロッド様は、常にノクトラームを守ることだけを考えているんだ。
ラントは、ロッド様の言葉に納得したように答える。
「分かりました。
…気絶だけで済ませればいいんですね。」
「あぁ。命を取らなければ、手加減はしなくていい。」
二人は、私を庇うように立ち、こちらに刃を向ける騎士達に向かって剣を構えた。
ぶわっ!と辺りに突風が吹く。
青のマントがなびいた瞬間。
ロッド様とラントは一斉に地面を強く蹴った
ガキン!!
まばたきをする間もなく、剣同士がぶつかり合う音が響き渡る。
ざっと二十人はいるであろう騎士達の集団にたった二人の“反逆者達”が突っ込んでいく
ラントは剣を巧みに操り、時には蹴りで反応しながら騎士達のみぞおちに攻撃を仕掛けた。
ロッド様も、すべての騎士達の動きを先読みするように、隙をうまくついて敵を地面に転がしていく。
ドッ!
「ぐはっ…!」
ガッ!
鈍い音やうめき声が、土埃の中に聞こえる。
私は、二人の動きに目が離せない。
…すごい…。
まるで、映画のワンシーンを見ているようだ
ラントも相当強いみたいだが、やはりロッド様は格が違う。
剣一振りで、四、五人の騎士を吹っ飛ばしている。
まばたきをしているうちに、数メートル先まで動いているみたいだ。
フェイントを何回入れているのかも数えられない。
…たった二人でこれだけの戦いが出来るなんて…!
私が、戦いに目が釘付けになり、小さく感嘆の息を吐いた
次の瞬間だった。
「……っ。」
急に、ロッド様の顔付きが変わった。
ぐっ、と苦しそうに顔を歪め、微かに先程までより動きが鈍くなる。
…!
まさか、呪いが進行しているの…?!
ロッド様は、体調をおして必死に苦しみに耐えて剣を振り続けいるようだが、間違いなく先程までとは違う。
ラントも、ロッド様の変化に気がついたようだ。
しかし、今のラントにロッド様を庇い助けに入れるほどの余裕はない。
その時、一人の騎士がパァッ!と瞳を輝かせた。
魔法の竜巻が発生し、ロッド様に襲いかかる
!
「危ない!」
私が大きな声で叫んだ、その時。
ロッド様は竜巻に飲み込まれ、庭の木の幹に思いっきり叩きつけられた。
「がは…っ…!」
ロッド様の口からうめき声が漏れる。
…!
どくん…!
心臓が鈍く音を立てる。
それを見た瞬間。
私は、反射的に体が動いていた。
「ロッド様!!」
思わず駆け寄った私に、ロッド様はずるずると木の根元に沈みながら呟く。
「…くそ…。こんな…時に……」
苦しそうにそう言ったロッド様は、強く拳を握りしめていた。
自分の体が呪いのせいで上手く扱えないもどかしさに、悔しさと焦りを募らせているようだ。
「ロッド…様………。」
私の掠れるような声が、小さく響いた。
…所々傷の出来たシャツ。
ロッド様の首元から覗くのは、鎖骨から胸にかけての呪いの痣。
…私は、戦えない。
魔法だって使えない。
その代わりに、私が今、出来ることは…!
私は迷いを振り切って、ぐっ、と体に力を入れる。
そして、思いっきりロッド様に腕を伸ばし、その体を抱きしめた。
「…!!」