反逆の騎士長様
私とラントの声が重なった。
ロッド様は、首を傾げる私達に答える。
「“人喰いの樹海”はその名の通り、一度立ち入れば生い茂った木々に喰われて出てこれなくなると言われる樹海だ。
普通の奴はまず近寄らないが、港町までの最短ルートでもある。身を隠しながら進むにはちょうどいい。」
えっ!
私は、ぞくり、と背筋が震えた。
一度立ち入れば、出てこれない…?!
「そんなところに入って、大丈夫なんですか…?!」
私が、そう口に出すとロッド様は、ふっ、と笑って余裕のある声で言った。
「心配はいらない。人喰いの樹海には、俺の古い“知り合い”がいるんだ。
その人に道案内をしてもらおう。」
“知り合い”…?
私とラントは一瞬動揺したが、ロッド様の後について行けばどうにかなるだろうという根拠のない安心感によって、樹海に向かう提案に素直に従った。
その時、私たちの背後に迫る黒い影に、誰一人として気づくものはいなかったのです。
**
「辺り、真っ暗ですね…。」
森を歩いて数十分。
周りの木々の様子が変わってきた。
私の言葉に、ロッド様は辺りを見回しながら答える。
「あぁ。もう樹海の中に入っているからな」
それを聞いて、ラントは辺りを見回しながら外套をぎゅっ、と体に引き寄せる。
ひんやりとした空気が頬を撫で、太陽の光は全く届いてない。
…不思議なところ…。
樹海なんて初めて入ったけど…
どこを歩いているのか分からないから、感覚がおかしくなりそうだ。
空気も、世界も、全てが違って見える。
ずっと夜が支配しているような樹海の中に、三人の足音だけが響く。
…ロッド様は方位磁針も見ずにずっと歩いているけど、大丈夫なのかな…?
すると、その時ロッド様がぴたり、と足を止めた。
後に続いていた私とラントは、ぶつかりそうになりながら立ち止まる。
「ロッド団長?どうされたのですか?」
ラントがロッド様を見上げながらそう尋ねた次の瞬間
薄暗い闇に包まれた樹海に、地の底から聞こえるような、低くしわがれた声が響いた。
『…お前達、何者だ…?
また、わしの森を荒らしに来たのか…!』
!!
私が目を見開くと同時に、ラントが腰に下げていた剣の柄を握る。
「ラント、落ち着け。敵じゃない。」
戦闘態勢になったラントを、ロッド様が、すっ、と手を伸ばして制した。
私とラントが動揺を隠せずにいると、ロッド様は一歩前に出て、樹海に響いた声に向かって大きく答える。
「ヴェル、警戒するな!俺はノクトラームの騎士団長、ロッドだ!
姿を見せてくれないか!」