反逆の騎士長様



“ヴェル”…?



ロッド様がそう叫んだ、次の瞬間だった。



シュゥゥッ!



一つの小さな影が、樹海の葉を揺らしながら幹を伝って滑り降りてきた。



っ!



ドン!と地面に降り立ったその姿に、私は息を呑む。


ラントが、私の隣で小さく呟いた。



「こ…小人のジジイ……?!」



『ジジイ?!無礼者ッ!わしはドワーフじゃッ!』



目の前に現れた“彼”は、いきなりラントに向かって腕を突き出した。


そこから、ラントに向かって突風が吹き出す。



「っ?!」



ラントはすごい勢いで吹き飛ばされ、地面にズササ…!と倒れ込んだ。



な、何が起こったの…?!



私が状況をつかめずにいると、ロッド様が目の前の彼に向かって口を開いた。



「ヴェル、そう怒らないでくれ。ラントは正直すぎるところがあるんだ。

…久しぶりだな。元気だったか?」



すると、ヴェルと呼ばれた彼は、にっこりと笑ってロッド様を見上げた。



『おー、おー!本物のロッドじゃったか。久しぶりじゃなぁ!

連れを攻撃して悪かったのぅ。あんなに礼儀がなってない若造は初めてで。』



楽しそうにロッド様と話すおじいさん。


彼の背は驚くほど小さく、歳は八十を超えているように見える。


私がぱちぱちと瞬きをしていると、むくり…と起き上がったラントが、眉を寄せながらロッド様に尋ねた。



「ロッド団長。その…“ジイさん”は何者なんですか?

まさか、団長の言ってた“知り合い”って…」



すると、ロッド様はおじいさんと私達を交互に見ながら口を開いた。



「あぁ、そうだ。この人が、俺の古くからの“知り合い”。

名前は“ドヴェルグ”。この樹海に住むドワーフだ。」



「「!」」



私とラントは、目を見開く。



…ドワーフ?


ドワーフって、よくおとぎ話の本に載っている小人のこと?


本当にいたなんて…!

初めて会った…!



私が目を輝かせていると、ドヴェルグさんはじぃっ、とこちらを見つめながら口を開いた。



『あんたらは、ロッドの連れじゃな?

無礼な若造がラントで…そちらの姫君はセーヌ、と言ったか?』



えっ!



「ど、どうして私達のことを知っているんですか?」



私が驚いてそう尋ねると、ドヴェルグさんは私を見つめて答えた。



『樹海に飛んでくる小鳥達が教えてくれるんじゃ。

ノクトラームで起きた謀反の噂も耳に入っておったよ。』






小鳥達から情報を…?


すごい!

さすが、ドワーフ…!



ドヴェルグさんは、キリッ、と笑って言葉を続けた。



『改めて…わしはこの樹海に住むドワーフ、ドヴェルグじゃ。

“ヴェル”、とでも好きに呼んでくれ。かしこまる必要はない。』



< 34 / 185 >

この作品をシェア

pagetop